【文学コラム】03.アンソロジー『奇妙な味の小説』
全16編の短編リストを挙げる。半世紀近く前の出版だが、当時のバリバリ現役作家ばかりから集められている。
近藤啓太郎『勝負師』・生島治郎『暗い海暗い声』・開高健『二重壁』・吉行淳之介『手品師』・筒井康隆『脱出』・森茉莉『黒猫ジュリエットの話』・五木寛之『白夜の終り』・島尾俊雄『夢の中での日常』
何をもって「奇妙な味」と呼ぶか、編者吉行自身が後記で述べているように、これは一言では説明しがたい、説明できないからこそ「奇妙な味」なのでもある。最近の若者に説明するなら「シュールな作品」といってもよさそうだが、それよりは幅がある気もする。
上記リストを見れば分かると思うが、それぞれ一流作家であるが、その代表作とは言えない佳作短編がほとんどである。テーマを構えて正面から描くという、いわゆる本格的作品ではなく、著者の一瞬の感性のひらめきのようなものを書き込んで、作家活動の傍線にあるような小品ないし掌編、ショートショートといったものに多い。
編者の同時代作家を中心に選んでいて、著者自身に趣旨に沿って自薦してもらったものも多いという。各作品の内容には触れないが、ここにある以外で私自身が「奇妙な味」と思えるものを挙げてみたい。
その発想は奇妙であるが、「奇妙な味」そのものを狙った作品ではなくて、鬱屈した気分を晴らせるための思い付き、という筋道だった説明があるために、奇妙な後味のまま置き去りにされるような作品ではない。
宝石商の父親から、新しく入ったダイヤモンドの品定めを頼まれた娘が、夢か幻想か分からない中で、若い男と共にその透明な宝石の中に閉じ込められていて、その男に犯される。
翌日には、そのダイヤモンドの中心に赤い点が現れ、やがて少しづつ赤い斑点が、血が滲むように拡がってゆく、というような幻想的な物語である。
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