【文学コラム】31.万葉のロマン あかねさす紫野ゆき・・・
万葉集に出てくるこの相聞歌、学校で習って気になっていた。というのも、実家の近くに「紫野」という地名があり、高校にもその名が付いており、校歌にも「あかねさす紫野の丘辺」と出てくる。その地は、今の京都市北区あたりにあって、今昔物語にも源頼光四天王 坂田公時らの失敗談として出てくる。また、応仁の乱で戦場となった「船岡山」も現存する。
これはもうてっきり、このあたりで、こんなロマンティックなやり取りがあったのかと思って、調べてみるとさにあらず。考えてみれば、天智天武の頃、近江京の時代で、この頃の京都はまだ何も無いド田舎であったはず。つまるところ「蒲生野」とされた土地は、今の滋賀県東近江市あたりで、ここの「船岡山」には歌碑やレリーフもしつらえられているという。
さはいへ、気になるのは歌の内容。おそらくは天智もいたであろう御料地での野遊びの場、馬上の大海人が遠くからシグナルを送ってくる。誰かに見られたらどうするの、なんて情景はおだやかではない、すは三角関係か不倫事かと妄想をかきたてられる。
天智・大海人(天武)・額田王の関係は微妙ではあっただろうが、様々な説があり定かではない。しかも、この相聞は、両人がそこそこ歳をとってからの宴席での戯れ歌であろうとも言われている。そうでもなければ、こんなきわどいやり取りが、記録に残るわけもない。
いづれにせよ、残された歌などから、このようなロマンを想像するのは「歴史」の態度ではなかろうが、かってな妄想を繰り広げてみるのも、楽しいものではなからろうかと思ふ次第であります。
〇『額田王』(新潮文庫/1972/井上靖) https://www.shinchosha.co.jp/book/106319/
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