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Ⅳ【食と文化コラム】09.衣笠丼とケツネ丼

【食と文化コラム】09.衣笠丼とケツネ丼


 春雨に衣笠山を来てみれば いとども濡るる我が袂かな (源国信)

 甘辛く炊いた油揚げと九条葱を卵でとじ、ご飯に乗せた丼ものを、京都では「衣笠丼」と呼ぶ。大阪人は、ただの「ケツネ丼」やんけと言うだけで、この呼び名の奥ゆかしさが伝わらないようだ(笑)

 都の戌亥の方角(北西)鹿苑寺金閣の西方に連なり、その庭園の借景にもなっている200mほどのなだらかな山が「衣笠山」である。衣笠山の麓に沿って、金閣寺から南西方面に御室仁和寺まで続く観光道路があって、これは「きぬかけの路」と呼ばれている。
 この路に沿って、金閣寺・等持院・龍安寺・妙心寺・仁和寺など国宝級の寺院が立ち並び、堂本印象美術館や立命館大学衣笠キャンパスなどの文化施設も隣接している。気候の良い晴れた日に、レンタル自転車などで「きぬかけの路」を散策するのも好適である。

 平安時代の宇多天皇が、真夏に衣笠山にかかる雪の景色を所望したため、山に白絹を掛けて雪に見立てたという故事があり、それにちなんで衣笠山は「きぬかけ山」とも呼ばれた。九条葱の緑と煮込んだ京揚げの茶色を、衣笠山の木の葉と幹とに見立て、それを玉子の白味の雪でとじて「衣笠丼」と名付けた。ひなびた大衆食堂ででも、京都ではかくもミヤビな丼が食せるのである(笑)

 大阪など近畿地方では、同じような仕様で「きつね丼」と称しているところが多い。京都では、玉子でとじていないものを「きつね丼」と呼んでいる店もあり、玉子の代わりに「あんかけ」にしたものを「たぬき」と呼ぶ場合が多いが、中には「きつね」とする店もあるとか。関東などの事情は知らないが、明治時代までは吉原の歓楽街でも「あぶ玉丼(油揚げの玉子とじ)」の名で呼ばれ、盛んに食べられていたという話もある。

 ついでに様々な組み合わせの丼を調べてみた。親子丼・他人丼・天ぷら丼などは全国版だが、他にも「木の葉丼」「若竹丼」「ハイカラ丼」などいろいろとある。「木の葉丼」は揚げの代わりにカマボコを刻んだものを乗せ、「若竹丼」はタケノコをスライスしたもの、「ハイカラ丼」は「天かす」を乗せて、天丼の代用みたいなものか。

 このようにいろいろな組み合わせで、新たな丼が開発できそうだ。牛肉と玉子の組み合わせが「他人丼」なら、納豆をととろでとじて「仲良し丼」とか、いかが?(笑)

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